杉並殿堂には大変お世話になったので追悼記事です。旧裏との出会いから杉並殿堂の魅力、杉並廃止後に残った現在の殿堂について書きます。
追記:杉並殿堂を制定した708さんの記事が公開されました。
まとめ
2023/03に旧裏のローカルルールの1つ、杉並殿堂が廃止されました。
杉並殿堂は、ルールの指針を明記し、指針に沿った改正を前提とした、初めてかつ現状唯一のルールでした。競技視点(ここではSpikeの意味合い)で杉並に感じていた魅力と、後発で杉並Likeなルールが出てきているけど、指針がないと謎すぎるし内輪感も強いよねって話をします。
1. 砂漠のDTCGとオアシス旧裏
2017年、当時の私は、ハースストーンやShadow verseにきちんと競技として向き合っていて、デッキを作る楽しみが得られなくなってきていました。
デジタルTCGを競技としてプレイする場合、情報の秘匿性が低いので、自分より上手いプレイヤーから丁寧に学習するのが、勝ちに誠実な基本戦略です。デッキタイプレベルで、新しい構築を一から組んで結果を出すのは、基本的にコスパの悪い選択で、十分に成熟して時間もあるプレイヤーが、(初見殺し込みで)ここぞの場で披露する印象で、私はそのレベルにありませんでした*1。
一方で、私が昔熱中していた幼く狭い遊戯王は、新しいデッキを作ることにも大きな楽しみがありました。デジタルTCGは、従来のTCGとは比較にならない速度で環境理解を進められてゲームを突き詰めやすくて非常に魅力的ではありますが、プレイ人口に対してカードプールやゲーム性が十分な多様性を持ち合わせていないと思います。仕組み上しょうがないです
そんな頃に始めたTCGがポケモンカード旧裏でした。旧裏はオフ会を中心に細々と遊ばれていて、人口の割に*2カードプールが非常に広かったです(パック10種、カードダス3種、その他多数のプロモカードを使用可能です)。
また当時のオフ会では、旧裏当時の公式殿堂ランクをアレンジした、新殿堂ランク*3で遊ぶのが主流でした。
殿堂ランクは強力なデッキを規制するルールで、一部のカードに殿堂ポイントが設定されていて、デッキを組む際は合計8ポイント以内に収める必要があります。
殿堂ランクもゲームの多様性を積極的に広げる側面があって、魅力的に映りました。例えば、殿堂ポイントが高くて強いポケモンを軸にデッキを組んでもいいし、単体では普通の性能のポケモンを、殿堂ポイントの高い強力なトレーナーでサポートするデッキを組んでもいいわけです。
当時の水準では、2エネ40点でもデメリットが付くので、破格の期待値
現在に至るまで同型再販が刷られることのない強力なトレーナー
殿堂ポイントは、特定の組み合わせを制限するように設定されているため、カード単体の禁止カードは存在しなかったり、違う組み合わせを見つければ活躍させられたりする点も面白いです。
2. 指針のある杉並殿堂の魅力
2018年、杉並殿堂という新しいローカルルールが制定されました*4。
このルールは、これまで存在した旧裏当時の殿堂ランクとそのアレンジである新殿堂と違い、明確な指針を持って制定されました*5。
1.対策困難な戦術は使いにくいよう規制をかける
2.規制は旧裏らしいデッキが組める範囲にする
3.改定は年1回(12月)検討
引用元:http://000708.blog.fc2.com/blog-entry-117.html
杉並殿堂が年に1度の殿堂ランク改定を予定していたのも、新しい点でした。現在の杉並殿堂ランクが指針を満たせていない場合、翌年の殿堂ランクが改定されます。実際に改定される際は、必ず、その理由も合わせて公表されていました。
競技プレイヤーとして見たとき、杉並殿堂には大きな魅力がありました。
競技視点の害悪さを受容可能
大前提としてオフ会は、各参加者にとって有意義な場でないと継続が困難ですが、極端な話、競技視点で勝ちに誠実な選択として、ロックやワンキル、ライブラリアウト要素のあるアーキタイプを発見すると楽しい場ではなくなる恐れがあります。単にパワーが高く対策困難なデッキを握り続けても、楽しくない場ではなくなってしまうかもしれません*6。
杉並殿堂では、上記の状況が発生しても、実情が指針に沿っていないことが明らかになっただけであり、改定が入れば問題は解決されます。早く正しくバグ取りした方が健全なので、競技視点のプレイヤーは害悪どころか、長期的に見たときは有益な存在にもなりえます。
紳士的な振る舞いが合理的
競技プレイヤーとして、実力を示すのに定番の指標は勝つことですが、杉並殿堂ではそれよりも魅力的な指標として、自分の発見/見解が広く強力だと認識され、殿堂改定を受けて規制されることがあります。旧裏は人口も大会も少ないし、レベル感も謎なので、単に勝つことの価値が低いのも拍車を掛けています......。
そういう訳で、デッキ解説は誠実にするべきですし、コミュニティとは必要なコミュニケーションを取るべきです。
勝ちの比重が大きい中での競技視点だと、チームを組んで内外で振る舞いを使い分けるプレイヤーが生まれたり(新規参入のハードルを上げることに繋がり、ゲームそのものの繁栄には繋がりにくい)、逆にゲームの繁栄を願って紳士的すぎる振る舞いをするプレイヤーが生まれたり(純粋に勝ちを求めるべき視点からは冒涜的)するわけですが、杉並殿堂においては後ろめたさなく紳士的な振る舞いを取ることができます。
新規参入のしやすさ
オフ会には昔から参加している人も、新規参入した人もいるし、TCG歴もバラバラなので、レベル差が大きいです。旧裏全体のカードプールが固定なのも経験値格差に繋がります。
杉並殿堂では、改定の副次的な効果で、経験値が多少リセットされます。また指針の「規制は旧裏らしいデッキが組める範囲にする」が実現されれば、旧裏当時遊んでいたプレイヤーやポケモンカードGB経験者が参入しやすい環境になります。
殿堂ランクが変わる分、過去のデッキリストをそのままコピーできなくなることで、新規参入しずらくなる懸念もありますが、杉並殿堂発行者の708さんはサンプルリストをある程度掲載してくれていました*7。
オアシスが枯れても次のオアシスを作ればいい
競技視点ではどんどん環境理解を進めたいですが、ゲーム内の限りある発見の余地は潰されていきます。旧裏はインターネット黎明期のTCGかつニッチなコミュニティゆえに、開拓され尽くしていないことが1つの魅力だったり、懐古きっかけでプレイしていて旧裏以外のTCGは遊ばない層もいたりと、ゲームの寿命を縮めることには罪悪感があります。
杉並殿堂上で遊ぶ分には、あくまで特定の指針の下のローカルルールなので、ゲームの寿命縮めても罪悪感が薄くて、ゲームの寿命が尽きてしまったとしても、別のローカルルールを作ればいいという、救いも提示できます。
3. 限界集落TCGの環境推移
旧裏は人口が非常に少ないですが、私は魅力があると思ってて、「日本最古のTCGなのに、殿堂ランクによりバランスの取れた環境で遊べる上、開拓され尽くしてもいない」、こんなのTCGオタクなら興味持つに決まってない?と考えてました。入手しようと思えば、意外と手に入るし*8。
中でも、明確な指針を持った杉並殿堂は、内輪さが薄いので、環境をまとめるのにちょうど良いと思いました。私はTCGの環境見るのが好きなので、旧裏もそうやって少しでも興味持ってもらえたり、雑談のネタくらいになってくれたりしたら嬉しい感。
で拙いながらも、2018年と2019年に環境まとめ記事を書きました。2020年と2021年は訳あって*9書きませんでしたが、2023年には、杉並殿堂と似た性質だったハレツー殿堂2023/01の環境まとめ記事も書きました。
結果としては、全くウケてないんですが(内容のしょぼさはともかく、私が思ってるより需要なさげだし、私以外に環境まとめ記事書く人もいない)、私にとってTCGをプレイすることは環境を語ることと切り離せなく、自己満足できたので問題ないです。書く気にさせてくれた杉並殿堂には感謝しかない
4. 杉並廃止後に残った殿堂ランク
杉並殿堂は、2023/03に廃止されました。
最終版となった杉並殿堂2022は、当初と比べて大分指針に沿った内容になっており、志半ばといったこともなく、ひとまず良い形で終わったのかなと思います。
杉並殿堂廃止後の現在は、改訂システムを杉並から受け継いだ、新たな殿堂ランクが複数存在します。これらは特定店舗のイベント用に、それぞれが独立に立ち上げたものでした。
・高槻殿堂(駿河屋高槻店 トレカ館)
・ハレツー殿堂(晴れる屋2 (秋葉原))
・BMうずまき殿堂(BIG MAGIC なんば店)
先に店舗をヨイショしとくと、昨今のポケカ高騰でイベントなんぞ開かなくても稼げる中、旧裏対戦というニッチなイベントを開催しているのは、ポケモンカード"ゲーム"をきちんと盛り上げようとしている側面があるからだと思います。昔からTCGをプレイしている身としては、旧裏イベントに限らず、このような取り組みをする店舗は応援したいです。
ただ、この店舗ルールの中で、ハレツー以外は明確な指針がなく、改定理由の発信もありません。ハレツーも、当初は発展途上ながらYouTube上で指針*10や改定理由*11を発信してくれていたんですが、2023/02の改定以降語られる気配がなくなってしまいました*12。
店舗の殿堂ランクは、店舗が独自に設定している形なので、中身をブラックボックスとした方が漠然とリスクが低いのは理解できますが*13、謎すぎるし内輪すぎる......って印象もぬぐえないです。別に謎でも内輪でも何も問題ないし、そもそもTCGをやることは無価値ですが、無価値の中でもマシなもの選ぼうとする愚かな私は気になってしまう。
以上です。一応誤解されるといけないので言っておくと、私は飽きを何回も通り越した熱中していないプレイヤーなので、ルールをどうしろ/するなとかは、全く主張してないです(いつ辞めてもおかしくないので、私なんかに合わされても困る)。まだ飽きを経験していないプレイヤーをどんどん取りこむことが大事だと思うので、老の自己満足ポイントは気にしなくていいです。
*1:2016年頃からオンシーズンの月末2桁踏めるくらいで、フィニッシュには届かないのでトップ層とは差が大きかったです
*2:オフ会や現代の店舗イベントに出たことのあるプレイヤーは全国で100人前後だと思います
*3:殿堂ランクについては、【ポケモンカード旧裏】殿堂ランクの歴史と遊び方 : Daydream Holic Nightが詳しいです
*4:2018年のみ名称が関東殿堂ですが、ここでは杉並殿堂で統一します。当初は開催していた関東旧裏オフという名称で用いられるルールだったので、関東殿堂という名称でしたが、主語の大きさを懸念して、2019年からオフ会名称と合わせて杉並になりました。
*5:旧裏当時の公式が、明確な指針を持って殿堂ランクを発行したかは不明です(私見ではまず無いと思いますし、指針があったとしても、それを実現できていないです)。新殿堂は、あくまで公式が発行した殿堂ランクの再現やアレンジの範囲内とするのが妥当で、公式の指針を観測できない以上、ここでいう指針はありません。
*6:実際、現在の新殿堂ランクで、競技性の高い環境を想定するなら、再現性の高い先攻1-2ターン目トレーナーロックが考察の前提になってしまいます。
*7:サイトマップ - 管理用(ポケモンカード有象無象)杉並殿堂2019のレシピが中心
*8:現在は、メルカリや通販でも簡単に見つかるし、旧裏扱ってる実店舗も探せば結構あります。旧裏当時は大ブームで発行枚数多かったのもあり、(状態に拘らなければ)1デッキ2-3万程度で組めて、世間で騒がれてる印象ほど高価ではないです
*9:2020年は素晴らしいアーキタイプが生まれましたが大会結果をベースにまとめても魅力的にはなりずらくて止めてしまって、2021年は触った量が少なかったので自制したのか完成に近い下書きで止まってました。
*10:発行当初の指針は、1.楽しいゲームを増やす。2.無色二個エネルギーを0点にする(neo以前のカードに光を当てたり、ビートダウンを促進したりを意図)。参考:【ポケカ旧裏ラジオ】強すぎて許せない!ハレツー旧裏使用制限カード解説!)
*11:【ポケカ】ハレツーの旧裏イベントであのポケモンが暴れまくって猛省しました……【旧裏ラジオ】
*12:チャンネル内の再生数は伸びてる部類ではないので、優先度低いのかもしれません。YouTubeめちゃ上手いflat-工房の殿堂解除選手権が同チャンネルの中でも伸びてるの見ると、非プレイヤーに伝われば、可能性あるジャンルなのかなとも思っちゃうんですが
*13:私見では、経緯はともかく内容のほとんどは、新殿堂と杉並殿堂がベースで、改定するときは杉並殿堂の改定を遅れて反映させていることが多いので尚更理解できます